<BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ 最終日◇8日◇宍戸ヒルズカントリークラブ 西コース(茨城県)◇予選=7397ヤード・パー70、決勝=7430ヤード・パー71>
「本当に夢なのかなというくらい。寝られない日が続いたり、『もう勝てないのかな…』とかいろいろ考えていた。肋骨の骨折から練習を続けてきて4試合目。まさかこの日本ツアー選手権で優勝ができると思っていなかった。うれしい気持ちでいっぱいです」
首位と1打差で最終日を迎えた蝉川泰果は、堀川未来夢とトータル10アンダーで並んでホールアウト。そしてプレーオフ1ホール目でバーディを奪って勝利。ウイニングパットを沈めた瞬間、空を見上げ、目にはうれし涙を浮かべる。2023年「ゴルフ日本シリーズ JTカップ」以来のツアー5勝目、日本タイトル3冠を飾った。この逆転劇は、左肋骨の疲労骨折からの復活劇でもあった。
米国男子下部コーン・フェリーツアーを主戦場にし、昇格を目指した今シーズン。だが、2月にコロンビアで開催された試合に参戦中に、背中に違和感があり棄権した。レントゲン、CT、MRIなど、あらゆる検査を受けても異常なし。「絶望でしたね。この痛みと一生付き合うのかもしれない…」。そんな不安と闘う日々だった。痛みの原因が判明するまで1カ月以上。「病名が分かったときは逆にホッとした」と振り返る。
そこから懸命な治療とリハビリを積み重ね、5月の国内男子ツアー「中日クランズ」でツアー復帰。心の内では、「コーン・フェリーツアーを主戦場にする平田(憲聖)選手のように行きたかった」と悔しい気持ちでいっぱいだった。それでも復帰わずか4試合目、そしてメジャーで優勝を遂げた。
ケガの期間中で得たことがある。「どういう風にリカバリーをしたらケガを防げるのかをすごく勉強した。一番は食事で変わるということをトレーナーから教わりました」。朝はオレンジジュースなどビタミンCを必ず摂るようにし、食事も焼肉や寿司から定食スタイルに変更。「野菜、味噌汁、ご飯という栄養バランスの取れた食事を意識しています」と明かした。
さらに、2週間前からはトレーニングの頻度にも変化を加えた。「ジムを月曜日、火曜日までにして体の疲労を抜いてあげるようにしている。筋トレを抜いたことで、力む癖を(なくして)柔らかく打てたと思います」。自身の体と向き合うことができ、新たなルーティンで挑むことができていた。
今大会では初日から好調を維持。2アンダー・5位タイの好発進から始まり、2日目、3日目とスコアを伸ばし、トータル5アンダー・3位タイで最終日に進んだ。最終日最終組でのひさしぶりの優勝争いに、「緊張します。勝ちたいという気持ちがある分、高ぶってきている」と話していた。
プレッシャーのなか迎えた最終日。1番ではティショットを左のバンカーに入れて、アゴが近くて出すだけのミスショットになった。それでもアプローチを2メートルに寄せてパーセーブ。2番パー5ではアゴの高いバンカーからの3打目を2バウンドで直接ねじ込み、イーグルを奪った。
6番、9番でもバーディを奪い、スコアを4つ伸ばして折り返し。11番でこの日唯一のボギーを喫し、残り3ホールで首位とは2打差だった。「『このショットは寄ってくれ』『これだけは入れさせてくれ…』と。打つ過程までのジャッジをしていますけど、最後は神頼み」。16番でバーディを奪い、首位に並んだ。
しかし、続く17番で堀川が2メートルのパットを沈めてスコアを伸ばす。「入れるか…と思いました。あんな緊張した場面ですごいなと思いました」。そして1打ビハインドで最終18番へ。蝉川は6メートルのバーディパトを決めてガッツポーズ。堀川はパーとしてプレーオフにもつれ込んだ。
5月の「日本プロ」も3位で週末を迎えたが、決勝ラウンドでスコアを伸ばせずに優勝に届かなかった。「今回に関しては『絶対に勝ちたい、何がなんでも勝ちたい』という気持ちだった。最終日はどのショットも気合いを入れて、“ガス欠”するくらいの気持ちで、集中しっぱなしでプレーしていたのが、勝てた要因だった」と振り返った。
「勝負強さは前よりも上がっている気がする。きょうはたまたまかもしれないけど、手応えを感じました」。この大会で、4日間すべてアンダーパーで回った選手はたった2人。地道なリハビリ、身体づくり、そして「勝ちたい」という純粋な想いが勝利に導いた。
今大会の優勝で、10月に日本で開催される米ツアー「ベイカレントクラシック」、7月にドイツで開催するDPワールド(欧州)ツアー「BMWインターナショナル・オープン」の出場権を獲得した。
「(欧州ツアーへ)行きたいです。コーン・フェリーで苦労して予選通過が精一杯だった。ケガをして自分を見つめ直して、コツコツやることの大切さは感じた。両試合とも上で戦いたい」。心身ともに成長した蝉川のこれからの挑戦に期待が高まる。(文・高木彩音)